Freedom~路地裏の幻Ⅲ~

9月の上旬の土曜日。
俺たちは宇都宮の中心街にある二荒山神社の広場で
5か月遅れの花見を楽しんでいた。
メンバーは俺とこうたと学生団体に所属している翔と
起業を考えているゆうたとけいた。
そして盲学校(目に障害を持った子供が通う学校)に
通いながら学生団体のリーダーを務めるひろのり。
様々な個性を持った男たちが集まった。
目の前にあるドン・キホーテで総菜を買い込んで
地面に広げて宴が始まった
最初こそ起業の話だとか人脈の話だとか
意識高い話が続いたけども
(俺はこういう話が大嫌い)
あっという間にエロトークに。
ひろのりがロリコンだとか、
ゆうたが青姦しただとかきったねぇ話が
延々と続いた。やっぱ男子高校生って
こういうもんだよな。
俺もカッコつけてノンアル気分なんか
買っちゃってそれ飲みながら
酔ったふりなんかしてさ。

気づいたときにはもう真っ暗
余った唐揚げを誰が食べるかじゃんけんで
負けた俺は少し不貞腐れていた
そんでゆうたとけいたがまだ
カフェに行ったことないらしく
せっかくだから連れてくことにした
9月上旬の宇都宮の夜はまだまだ蒸し暑い
10分くらい歩いてカフェに着いた
じめじめした建物に入り3階まであがり
灯りを付けた。もうすっかり俺たちの秘密基地だ
ゆうたとけいたはカフェの狭さに驚いてた
そのまま俺たちは巨大な扇風機の前に
顔を並べこのカフェの今後について話した
やっぱり人が来ないことには
運営どうこういってる場合じゃないよなって
ことになって今度からゆうたとけいたも
2日に1回くらい顔を出すことになった
俺もバイト終わってから合流することで
決定。やっと面白くなってきた

週が明けて月曜日
2日に1回て言ったのに隣町に住む翔以外は
全員揃っちゃうていう事件発生。
さすがにこの狭いスペースに全員入りきらない
少しスペース飛び出して各々のお仕事スタート
受験が近いゆうたなんかはプレゼンの練習してた
俺らが聞いてぼろクソに感想を言うみたいな
今思えばちょっと言い過ぎたかなと反省
9時半に営業終了してからラーメン食い入ったり
もう本当に仲間って感じだ。

こんなのが4日くらい続いた。
そんである日、ラインのグループで
「明日全員で集まろうぜ」って言ったんだよ
その時はどんなことになるかなんて
想像してなかったんだよね。
そんで次の日学校終わってからさ
そのままカフェに行ったんだ
そしたらさ余裕でカフェのスペースから
飛び出しちゃうくらいの男たちが
わんさかいるわけ。
もう多すぎて誰が誰かさっぱり覚えてねぇ
んで、もちろんスペースはみ出して
グループごとに話してたら2階から
誰かあがってくるのさ。
俺はその足音が友達だと思ってたんだよね
「よぉりゅうた!!遅かったな!」
言って1秒で後悔した。そいつはりゅうたじゃなかった
一番このタイミングで来てほしくなかった人
ここのビルの賃貸主だ。あ~やべぇ見られた~
俺らの前に現れたおっさん(のびた似)に
俺たちはめちゃくちゃ怒鳴られた。
やべぇて思いながら顔を下げる常連の奴らと
え、ナニコレ?て顔で呆然とする新人
一応運営のこうたが何か反論してたが
おっさんは聞く耳を持たなかった
まぁどんなバカな俺でも分かる
これは間違いなく俺らが悪い
130%俺らのせいだ。
おっさんは俺らのオーナーに電話した
とりまおっさんがめっちゃ怒ってるので
俺はこうたを残して
今日初めて来てくれた地元の高校生を
連れて近くのスーパーのイートインコーナーで
今回の事情を伝えた。1時間後基地に戻ると
こうたがいた。オーナーから連絡があったらしく
このカフェの閉鎖が決まった。
今回の事件以外にも色々金銭的な問題も
あったから妥当な決断だったとも思える
カフェの最後の営業日
俺とこうたは真っ暗のビルの前で
思い出を語り合った。
最初はあんなに客が欲しい欲しい
言ってたのにいつの間にかこんなに
集まっちゃって集まりすぎて閉鎖とか
笑えるよな。ほんと何があるか分からんよ
俺らはこれを路地裏の幻と呼ぶことにした
きっと二度とこのビルに帰ってくることはないだろう
たしかに経営は最悪だったしカフェとしては
完ぺきではなかったかもしれんけど
この場所を通して色んな同年代と知り合えたのは
超楽しかった。みんなとは
きっとまたいつか一緒に活動する日が来ると思う
その時までに俺はもっと面白くなってたいし
もっとカッコよくなってたい。
それは何か月後何年後かは分からんけど
また一緒に幻を起こせることを楽しみにしてるよ
蝉の鳴き声が聞こえる
俺はなぜかすっきりした気持ちで家へ帰っていた

Freedom~路地裏の幻Ⅱ~

こうたに初めて会った日から2日後、
俺はカフェの現状を確かめるために
高校が終わってから歩いてカフェに向かった
俺の高校からカフェまでは
30分以上歩かないといけない。
8月の終わりだというのに蒸し暑く
歩くだけで汗をかいてしまう。
近くのドンキで500mlのジュースを買って
およそ2か月ぶりにカフェに顔を出した
受付にこうたが座っている
「お疲れ~学校終わりなのに早いね」と
俺が言うと、こうたは
「オーナーとの約束で
週4日17時から21時まで
オープンすることになってるんだよ」
週4日放課後4時間カフェの受付業務か、、
ボランティアの域を超えている。
「最近お客さん来てるの?」
「まぁぼちぼちかな、お客が来ても
アンケート記入と簡単な説明以外は
特にすることないから暇だよ」
こうたは意外と読書家らしい。
ここのカフェには賃貸主が買い集めた
ビジネス書が並ぶ本棚があり
スタッフは自由に読んで良いことになっている。
それが唯一の救いだとか。
カフェの現状について
詳しく聞いてみることにした。
分かったことを順番に整理すると
まずこうたが運営に入った直後
元々、受付をやっていた東京の大学生が
姿を消した。顔を出さなくなっただけでなく
ラインやTwitterまで全部消してしまったのだ
オーナーは事情を知っているのかもしれないが
オーナー自体がカフェに顔を出さないので
聞くにも聞けない。
また元々はフリーWi-Fiだったのだが
賃貸主からWi-Fiの利用を禁止された。
こうたもそのことについては
書類を見せられただけなので
なぜこのような経緯になったのかは知らない
また、一日の平均利用客が3人4人なので
1日の大半はカフェにこうたが一人きりらしい
当初はフリードリンクの予定だったが
現状はオーナーのフィリピン土産の紅茶のみ
カフェをオープンしてからというもの
この事業での収益はない。
誰が見ても健全な運営とはいえないだろう

からしたら、それはまるで孤島に
閉じ込められているようなものだ。

カフェに来てから1時間が経った。
2人で話し合っていると、ふと壁に
貼ってあるポスターに目がいった
「学生起業コンテスト」についての
ポスターだ。そこには去年の参加者が
起業の重役の前で自分の企業案を
発表している場面の写真があった。
どいつもこいつも癖がありそうな
人ばっかりだ。はちまき巻いて
熱弁してる人もいた。
こんな奴らが集まったら絶対面白いよな
なんて考えた。ここで俺が思いつく。
「いや、待てよ。お客が来ないなら
俺たちが呼んじゃえばいいじゃん。
俺たちの知ってる限りの
変人高校生集めようぜ!」
「それいいな、絶対楽しくなるわ
 俺の友達に変な奴いっぱいいるから
 早速連絡してみるわ」
俺の頭の中では最高にハッピーな
カフェの様子がイメージできたいた。
だってそうだろ?
1人でも十分変人な奴が7,8人集まったら
すごいことが起きちゃいそうじゃん

話がまとまってからの行動は早かった。
お互いのツイッターを見ながら
栃木在住の変な奴を探して
見つけたら速攻DM。
「今、宇都宮の中心部で最高に
 ホットな学生カフェをやってるんだ。
 もしよかったら一度顔出しに来てよ」
こんな感じでとにかく送りまくる。
ちゃんと反応してくれた人には
ラインを交換して、グループに招待
そこで集まる日にちを決めた。
俺の周りにも変な奴が2人程いたので
確認もせずにグループにぶち込んだ。
文句言われるかな?と心配したけど
逆に感謝された(笑)
グループは少しずつメンバーが増えてきた
善は急げなので集まれる人たちで
五か月遅れの花見をすることにした。
(もはや花見ではないとか言うな)
ここからこのカフェにどんな変化が
起こるのかが楽しみだ。

Freedom~路地裏の幻Ⅰ~

なぁ秘密基地に憧れたことってないかい?
いいや、ないはずがない。
みんな一度はあるはずだ。
それは幼稚園生の時かもしれないし
小学生の時かもしれない
俺にはあった。あれは小学生の時だ

俺たちの下校班は男ばっかりだった
デブとチビとノッポ(これが俺)と
デブとチビ
みんな仲良くて途中で別れるのが
めっちゃ寂しかったんだよね
それでさ、商店街の空き地を見つけて
俺たちの秘密基地にすることにした。
帰宅する前にみんなでそこに集まって
時間を潰すんだ。特に何をするわけでもない
商店の息子が家から袋菓子をパクってきて
みんなに振る舞う。
そしてまた違う商店の息子が
家の倉庫からジュースをパクってくる。
そいつはビビりで1個しか盗んでこなかった
下校班は5人。もちろん争奪戦だ
だけど結局はみんなで回し飲み
250mlの小さな缶ジュース
それを囲みながら
好きな女の子の話をしたり
覚えたてのエロい単語を叫んだり。
傍から見たら変な奴らだが
俺らは本当に楽しかった
寄り道を禁止されてる小学生には
帰り道に食べるポテチと
回し飲みの炭酸飲料は
すごいご馳走だったんだ。
だけどこの秘密基地の話が
周りに広がりすぎて
学校にバレた。
それはそれは叱られた。
だけどそんな悪い思い出こそ
こうやって記憶に残ってるもんだよな

今回はそんな秘密基地に関するお話だ
なにも秘密基地に憧れるのは
幼稚園生や小学生だけではない
俺ら高校生だってそんな場所が欲しいんだ
学校とバイトと家の往復の毎日
そんな俺らにも少し休憩する
場所があればいいななんて思ってる
今回の俺の立場は当事者でもあり
傍観者でもある。
だからこの記事を書くのは最初は
気が進まなかった。
だけど今回の路地裏の幻を幻で
終わらせないために俺はここに
書き殴ろうと思ってる。
いつかまた誰かが
この未完のプロジェクトを
完成させてくれることを信じてね
では本題に入ろうか。

夏休みも終わろうとしている8月24日
俺は駅前のマクドナルドにいた
今年の夏休みは
広島に災害ボランティア行って
(このことはまた別の回で話すよ)
青森のばあちゃんに会いに行って
ママチャリで東京まで旅して
盛りだくさんの長期休暇だった。
遡ること1週間前。
バイトが終わり自分の部屋で
扇風機とお見合いしていたら
俺のスマホに通知が入った。
TwitterのDMだ。
確認してみると見たことない人だった
どうやら県内の高校の3年生らしい
相手は俺のことを知っていた。
いくつかメッセージを交換すると
話の筋が見えてきた

この先輩は俺が前に少しお世話になった
Start upカフェという勉強スペースの
スタッフになったらしい。
そこでオーナーから俺の話を聞いた
そして話がしてみたいと思い
DMを送り俺をマクドナルドに誘った

こんな感じだ。相手の文面を見ても
とても誠実な人っぽいオーラーが
伝わってくる。俺としても
きっとどこかでこの人と交わりそうだから
日にちを指定して会う約束をした。
そして今に至る。
俺はレジでマックシェイクを注文して
その先輩が待つ席に向かった。
14時だというのに店内は満員
100円のジュースを注文して
居座り続ける学生たち。
財布の懐が寂しいのは
どこの高校生も同じらしい
そんな中、
顔も知らない先輩を探すのは
とても困難だった。
キンキンに冷えたマックシェイクを
片手に店内をキョロキョロ。
すると先輩自ら声をかけてきた。

「君がK君か、会いたかったよ」
俺は普段、会っただけで
こんなに喜ばれることはないので
少しビビった。なんて反応しようか
脳みそフル回転させる。
とっさに出てきた言葉は
「あ、、ああありがとうございましゅ」
なんて頼りない脳みそなんだろうか。。
そこからお互いのことについて
語り合った。こうた(仮名)は元柔道部
夏に引退し今は新しいことを
始めようと自分で動き始めたらしい
その時丁度start upカフェを見つけた
DMでスタッフとして働きたいと
メッセージを送り採用になった
翌週から毎日4時間カフェの
受付に座り運営している。
こうたはカフェをもっと大きくしたいと
話していた。実際この時1日の
平均利用者数は3人。
勉強スペースを提供しているだけなので
収入は生まれない。
それでも場所代と光熱費などが
それなりにかかるので赤字だ。
この状況を打開するためには
まず利用者を増やさなくてはならない。
そこから二人で解決策を話し合い
とりあえず今日は
ここで別れることにした。
俺は携帯の画面を見て
真っ先に駅に走り電車に飛び乗った
夕方からバイトがあるのを忘れていた
こうたはカフェの開店準備が
あるらしく、そそくさとカフェに
戻っていった。

 


1日の平均利用者3人。
駅から徒歩10分
入り組んだ住宅地にあるビルの3階
看板はなく、夜は暗い。
オーナーは常に顔を出さない。
そんな絶望的な環境にあるカフェを
舞台に今回の物語が幕を開ける
客を集める難しさと
見せつけられる理想と現実の差
だけど俺たちはこの小さなカフェを
人と人が出会える場所にしようと思い
SNSでの発信を始めた。
この日から1か月後
このカフェで奇跡が起こる。

次回の更新をお楽しみに!

 

 

Freedom~氷点下の宴Ⅳ~

AM6時半。
固いベットの上で目を覚ます。
もちろん足は筋肉痛
窓にかかったブラインドを上げると
灰色の空が広がっていた。
少しだけ換気しようと窓を開けてみる。
ひんやりと冷たい空気が
鼻の奥に入ってきた。思えば今日は大晦日
我が家では
「大晦日はPM7時までには家に帰ってくること」
っていう訳の分からんルールがあって
それは旅してようと仕事してようと関係ない。
野木まで行って7時までに帰るのは
決して難しいことではないのだが
問題はたくまのほうだ。
あいつは前回の旅の時も
寝起きの機嫌がめっちゃ悪くて
さっぱり出発できなかった。
俺は優しいから
あいつにモーニングコールしてやった
もちろん
この時間にあいつが電話に出るわけがなかった
仕方なく早朝のお散歩に行くことにした。
ホステルを出て
通学路にある公園に向かった
早朝の宇都宮は県庁所在地といえど
人は少なくカラスの鳴き声が街に響いていた
滑り台に座りそのまま倒れこむ
リラックスしてるように見えて
頭の中では今日のプランが駆け巡っていた
そのまま30分誰もいない公園で考え続けた
7時半にホステルに戻り「奴」を起こした。
相変わらず機嫌が悪かった。
少ししてたくまから電話がかかってきた
「やべー、昨日ブーツで50kmくらい歩いたから
 足の裏が内出血起こして真っ黒になってるよ。
 これ今日無理だわ」
まぁそうなるよね。薄々感じていたよ
あいつとはホステルのエントランスで別れた
カンパだと言って500円玉を渡してきた
ありがたく受け取って歩き出した
昨日の残金と合わせて
1400円くらい残ってる
1人で旅するならこれだけあれば十分だ。
少し歩いたらお腹が減ってきた
しかしこの時間だと
まだどこのスーパーも
開店していなかった。
すると丁度いいところに八百屋があった。
きっと個人経営のパパママストアだろう
腹が減ったときはバナナが一番
店内で探してみたが
バナナは置いてなかった
少し残念だったが
置いてないのはしょうがない
店を出ようとしたとき、店員のおばさん
いや正確にはおばあさんが声をかけてきた
「あんたそんな看板背負って
 どこ行くのよ?栃木縦断??
 こんな寒い時に??面白いね
 ねぇお父さん
   裏にあるりんご持ってきてよ」
すぐにおじいさんが出てきて
俺にりんごをくれた
俺は無我夢中にリンゴにかぶりついた
それを見ておばちゃんが笑いながら
熱々の烏龍茶まで出してくれた。
「お代はいらないから温まりな」って
聞くと前にも俺みたいな旅人を
家の倉庫に泊めてあげたことがあったらしい
ヒッチボード用の段ボールももらい
至れり尽くせりだ。
この旅が終わったら
きっとまた来るって約束して店からでた。
するとおばちゃんがもしものためにって
使用済みの軍手と
茶菓子を俺のリュックに詰めてくれた
俺もじーさんになったら
八百屋でも開いて、俺みたいな
アホな旅人を救ってやろうかなと思った

新調した看板をぶら下げてまた歩き出す
20分ほど歩くと大きな交差点に出た
俺は運悪く信号に引っかかってしまった
信号を渡った先にはコンビニがある
ひとやすみすることにした
横断歩道を渡ってコンビニに行くと
一人の若者が俺に寄ってきた
(俺が若者っていうのはおかしいけど)
「お兄ちゃんヒッチハイカー?
 席開いてるから乗せてあげるよ」
「はい!喜んで!」
またも誘いにのってしまった。
なんて信念がないやつ。
車内でお兄さんたちと喋ってたら
まさかの同じ高校の先輩だったのだ
それも3つ上の人。
やばいよね、すごい偶然
そしたらこの人たちお腹減ってたみたいで
すき家に行くことになった。
金使うの渋って唐揚げ食べようと思ったら
好きなもん食えってメニューをくれた
朝からリンゴと茶菓子と牛丼もらって
昨日の空腹が嘘みたいだ。
食べ終わってからすき家の近くの
自治医大駅ってところで降ろしてもらった
近くのスーパーで
セルフサービスのお茶をがぶ飲みした後
小山方面に向けて歩くことにした。
空はなんだか雨が降りそうだ
少し歩くと対向車線の車が
ラクションを鳴らしてきた
応援してくれたのかなと思った
それから3分後さっきの車が
こっち側の車線を走ってきて
俺の少し前で停まった。
俺が横を通り過ぎると
窓を開けて話しかけてきた
「俺、今から小山まで行くから乗せるよ!」
この旅を始めてから
ヒッチハイク3回目
きっと看板に
栃木縦断中しか書いてないから
心優しい大人たちがごぼうみたいに
ガリのっぽな俺を心配して
乗せてくれるのだろう
もう流れに身を任せることにしてみた。

乗ってから知ったのだが
このお兄さんも元々は旅人だったのだ
ヒッチで九州?までいったりとか
数々の旅をしてきたらしい。
昔の自分みたいだった俺を
乗せてあげたくなったらしい
いや~いいよねこういう繋がり
人から受けた恩を他人に返すみたいな?
俺も車持ったらヒッチ少年乗せてやろうっと
(きっと軽トラに乗って
   日本中を回ってるだろう)
30分はあっという間に過ぎた
小山の中心街のコンビニに降ろしてもらった
それからコンビニで
ジュースとハイチュウを買ってもらった。
また人に恩をもらってしまった。
そして別れ際に特技のけん玉を見せてくれた
技は失敗したけど大人がニコニコしながら
本気でけん玉してるのは案外カッコよかった
お兄さんと別れてすぐ、外は雪が降ってきた
2017年のクライマックスには相応しい。
しかし旅人の場合話は別だ。
リュックは濡れてしまうし
段ボールはぐしょぐしょ
おまけに体温まで奪われる。
考えてる暇はなかった。
現在地から500mほど離れたところにある
スーパーまで全速力で走った。
それでも全身濡れた。
そのまま多目的トイレに滑り込む。
ここから一人作戦会議の始まり
まず天候から考えて
徒歩で野木まで行くのは
諦めたほうがよさそうだ。
だけど野木に行くこと自体を諦めるのは
どうしても嫌だった。
応援してくれた人たちの
気持ちを裏切りたくないし
それにここで諦める自分が
めっちゃかっこ悪いじゃん?
だからここからは
ヒッチハイクで野木に向かうことにした。
決まったら即行動がお約束。
近くのダイソーに行って
気持ちばかりの雨合羽とゴミ袋を購入
前の旅にも登場したのだが
ゴミ袋はヒッチハイクするときに
リュックを濡れないようにするために使うのだ
一通り装備してから
さっきのコンビニに帰った
そしてコンビニの前の
交差点でヒッチスタート
雪の中のヒッチは初めてだ。
精神的にも大分しんどい
車に乗ってる人からしたら
間違いなく「変な奴」だ
雪水で前髪をびしょびしょに濡らして
微妙に小さい雨合羽を着ながら
ひたすら段ボールを振り回し
間々田(次の目的地)まで行きたいです
って叫び続ける。
俺なら怖くて乗せられない。
子供も一緒なら尚更ね。
だから子供連れの若ママが
乗せてくれたのにはビックリした!
2駅だけだったが
雪の中で乗せてもらえたのは
めっちゃ嬉しかった。
あと5分遅ければ間違いなく低体温症だった
確か2人とも幼稚園児だった気がする
車の中で当たるわけもない
フルネーム当てクイズを
やってたらあっという間だった
(俺は2人ともフルネームを当てた)
間々田のローソンに降ろしてもらってお別れ
正直言うと今回の旅で
一番お別れが悲しい家族だった
南に移動したからなのか
まだここには雨雲が来てなかった
俺は逃げるように南に向かって歩き出した
時計を見るとそろそろ野木に着かないと
まずい時間帯だった。
近くにやたらと広い駐車場のコンビニが
あったのでそこで最後のヒッチを開始
すると5分で一台の車が停まってくれた
ちょっと怖そうなママさんだ
乗せてもらえるってことなので
恐る恐る乗らせてもらった
しかし話してみると言葉こそ
怖いけど優しいママだった。
娘さんは俺と同い年。
Kの日記って名前は知らなかった
ん~俺もまだまだだね
高身長イケメンのKって
あだ名はまだ県南には届いてなかった
(宇都宮でも誰も呼んでくれないのだが)
車はあっという間に野木町に入った
近くのスーパーに停まってくれた。
「帰りもヒッチでしょ?
 段ボール取ってきなよ」
なんて気がきくママなんだろうか
実際俺はそんなこと考えてもいなかった
俺は駆け足でコカ・コーラ
段ボールを持ってきた
するとさっきの娘さんがいない
「あいつならさっき店の中にいったよ」
おつかいにでも行かされたのかな?と
思って待っていたら
パンの袋を持って帰ってきた。
そしてそれを俺に渡してこう言った
「これ、うちからの応援!頑張って帰ってね」
ヤバいこれには俺も感激。
JKからのプレゼントだ。
パンはまだほんのりと温かい。
こんな気が利く女の子が俺の同級生か
きっと俺が幼稚なんだろうな
無茶苦茶感謝してお別れした
この子はTwitterやってなかったので
それ以来連絡は取ってない
またどこかで会ったときは
プレゼントの倍返しをしようと思う
片手に段ボール
片手にパン
そんな訳分からん状況だったせいか
俺はすっかり野木に着いたことを
忘れていた。ゴールだ。ここがゴールだ
出発の時から随分と状況は変わっていた
相方はいなくなった。荷物が増えた
お気に入りの手袋は
八百屋のおばちゃんの軍手に変わっていた
そして何故か無一文旅のはずなのに
俺は満腹になっていた。
よくよく考えたらこの旅自体が良い意味で
訳の分からんもんだなと思う
逆ヒッチ3回に2食もごちそうになって
ホテルのフロントのおばちゃんに
カンパをもらって、リンゴかじって、、
全部家を出るまでは想像できなかったこと
ヤバいよな、こんなのばっかりだから
旅ってやめられないんだよね~
こうして俺は野木の小さな駐車場で
ほんのり温かいパンを
食べながら芝の上に倒れこんだ
さぁ帰るか俺の街へ
暖かくてみんなが待つ俺の家に

俺は本当に最後の
ヒッチボードを作り
4号線に出てヒッチを始めた
その後の話は想像に任せるよ
結果だけ言うと夜6時半に
俺は宇都宮駅に降ろしてもらった
その時俺の目には
うっすらと涙が浮かんでいた。
この話はまた違う時にしよう
家に帰った俺は
親もあきれるほど肉を食いまくった
そして年越しの瞬間を迎えることもなく
深い眠りについた
晦日といえど俺の地元は
とっても静かだった。
バカ騒ぎする若者もいなければ
酔っぱらうおやじもいない
なんだかんだ平和な街なのだ
俺はやっぱりこの街が大好きだ

Freedom~ブレイクタイム~

ちょっと雑談でもしようか
まずは俺の話。この冬日本中で
インフルエンザが大流行した
俺はファッションとかの流行には
とことん鈍い。いや、正確には
鈍いのではなくて俺が最先端なのだ
自分の中ではイケイケファッション。
しかし誰も真似しようとしない。
きっとみんな俺に気を使っているのだ
そう、きっとね。
さて、そんな鈍い俺が(響きが悪いな)
インフルエンザにかかっちまった。
学校に5日も行かない週なんて久しぶりだ
それにもちろんバイトも禁止
俺は5日間限定の
引きこもりニートになった
なってみて分かる。
意外とひきこもりも悪くないってこと。
朝9時にゆっくり起床
朝ごはんを取りに行って
ストーブが効いた部屋でゆっくり食事
食べ終わったら寝っ転がって
今日の予定を書く
もちろん大好きなBGMを流しながらね
好きなだけ絵をかいて
旅の予定を立てて
スマホゲームやって
Twitterを開く
そんな毎日の繰り返し。
日本にひきこもりが増加している理由も
分かる気がする。一度この生活に慣れたら
元の生活に戻すのは楽ではないだろう
んまぁこの家にいる限り
俺がひきこもりになることはなさそうだ
ひきこもりに飯を作るほど
俺のおふくろは優しくない。

次に街の話。
今年の冬は特に冷え込み夕方になると
ジャンバーを着てても
風邪をひきそうになる
それも関係しているのか
路上を賑わせている
ミュージシャンたちも
姿を消してしまった。
俺は良く友達との待ち合わせに
駅東口の連絡通路を使うのだが
週末の夜の場合高確率で
黒いパーカーに迷彩パンツ
黒マスクにサングラス、
肩からギターをひっかけ、YouTube
音源に合わせてAviciiの人気曲を
熱唱するおっちゃんが現れる
(愛してるよおじさんって名前らしい)
俺はそのおっちゃんと一緒に路上で
熱唱するのが大好きだった。
このおっちゃんの面白いところは
ギターを持ってても
一切弾けないというところだ。
そう、いわゆるエアギター
だから俺もビニール傘をギターにして
でたらめに振り回しながら歌いまくる
なぁ本当に楽しい時って周りの目なんか
忘れちまうよな。どんなに音が外れても
高校生に笑われても構わない。
ただひたすらに覚えたての歌詞を熱唱し
ビニール傘を持った体をくねらせて
宇都宮中に響き渡るくらいに叫ぶ
偶にTwitterとかで俺を見つけた人が
「勇気ありますね。僕もやってみたい」
とかってメッセージくれるんだけど
俺は慎重に話すようにしている
なんていったって
こんな奴が宇都宮中に
溢れかえってしまったら
収集がつかなくなる
ビニール傘持って熱唱するバカは
俺一人で十分だ。
そんなアーティストたちが
街から姿を消してしまった
心なしか少し寂しく感じるよな
俺は俺で最近は
路上に出たい気分でもないんだ
YouTubeを撮りたいわけでもない。
最近のマイブームはカクテルと
ファッションデザイン
学校帰りにシロップやら
ソーダやら買い込んできて
毎晩おやじとおふくろにごちそうしている
なんてよくできた息子なんだろうか
(実際はInstagramに載せるのが楽しいだけ)
ファッションデザインも本気だ
Gratisという名のアパレルを立ち上げ
Tシャツやコーチジャケットなんかを
デザインして販売している。
意外と売れるからびっくりだ
な、俺もそろそろ
インテリ男子の仲間入りだろ?
なんたって最近は
インテリ系がモテるらしいんだ
もう少しでバレンタイン
クリスマスを逃した俺にとって今回の
バレンタインは総力戦だ。
なんとしても可愛い彼女を作って
たくまに自慢してやりたい

追記。
こうやって生活していると自分が何者か
分からなくなってくるんだ。
ユーチューバーっていう立場と
カクテル作ったり
ファッションデザインしてる立場と
はたまた、普通の男子高校生って立場
一体どれが本当の自分なのかわからない
一体俺は何者になるんだろうか

Freedom~氷点下の宴Ⅲ~

おっちゃんに乗せてもらって
矢板市の中心街まで進んだ
ここから宇都宮までは電車で30分
車で40分くらい
徒歩だと、、、、、想像もつかない
とにかく進むしかないよねってことで
また歩き出した。
非常食に持ってきた魚肉ソーセージを
かじりながらいくつもの坂を超えた
途中さくら市から宇都宮の手前まで
もう一度ヒッチをした。
開始五分で乗せてもらい20分くらい移動した
分かれ際、おばちゃんがセブンに寄って
2人分のカルビ弁当を買ってきてくれた
俺たちが驚いているとおばちゃんが言った
「空腹だと旅も楽しめないわよ、
 お礼はいいからしっかり食べて
 今日の宿まで歩きなさい」
ありがとうございますお釈迦様。
ありがたく食べさせていただきます
正直まじで空腹だった。
たかがコンビニ弁当
されどコンビニ弁当
コンビニ弁当で幸せを感じられる俺たちは
今世界で一番幸せ者かもしれない

夜6時再出発
この時期の夕方はもうすっかり真っ暗だ
暗闇に飲み込まれてしまいそうな
気がしてきて恐怖を紛らわすため
モンゴル800の「小さな恋の歌」を
2人で大熱唱しながら国道を歩く
5㎞ほど歩いて宿が見えてきた
この辺りはいつもの俺らの
通学路だ。いつもは気にもしない
ネオンの看板たちが心なしか
俺らを歓迎してくれてるような気がした
宿にチェックイン。
予約はしたのでスムーズ
しかし俺はここで一つ恥ずかしいミスをした
無一文で栃木県縦断中と書いた背看板を
つけたままフロントに行ってしまったのだ
思い出すだけでも恥ずかしい
だが、これが話のネタになり
フロントのおばちゃんと仲良くなれた
チェックインを済ませて
部屋に行こうとしたところ
おばちゃんに呼び止められ
「これは私からの個人的なお小遣い」って
500円玉をもらった。
初めて会ったホテルのフロントの人が
お小遣いくれたなんて話聞いたことあるか??
俺は驚いてピョンピョン跳ねながら
部屋に入った。部屋の内装の話は
しなくてもいいよな?なんて言ったって
一泊2000円の格安ホステル。
ある程度暖かくて寝ることさえできれば
それで十分だ。
部屋の中にトイレがないのを
除けば完璧な安宿
30分くらい休憩してから
温泉に行くことにした
都会の方ではスーパー銭湯というらしい
通常なら800円で入浴できるのだが
(それでも高いけどね)
俺は何をまちがったのか
6時間滞在プランの
2100円コースを選んでしまった
悔しくてこれでもかって位に
シャンプーを使い
延々と高麗人参風呂に使った
この旅が終わればまた貧乏生活の始まりだ
銭湯から出てホテルまで歩いて帰った
時刻は夜10時半。近くの居酒屋も
賑わい始めたころだ。
赤く光るちょうちんが
ぶら下がった店からおじちゃんの
カラオケが聞こえてくる
さすがに俺でも今日は疲れた
ベッドに倒れこむと
電気を消すのも忘れ深い眠りについた
2017年終了まであと1日

Freedom~氷点下の宴Ⅱ~

AM8:00
俺らは近くのスーパーで貰った段ボールを
加工した手書きの看板をリュックサックに
引っ掛けて4号線を歩いていた。
出発から1時間。特にトラブルもなく歩いてきた
(途中たくまが抜け駆けして
 パン屋さんにパンを買いに行ったことを除けば)
スタート那須町のお隣、那須塩原市に入ったときのこと
俺はポケットに入れたはずの手袋を
着けようとした。(なぜ着用していなかったのか)
右ポケットに手を突っ込む。 ない
左ポケットも探す  ない
リュックを探す  ない
慌ててパンツに手を突っ込む 温かい(関係ない)
3回も探してみたがあるはず手袋がないのだ
たくまを問い詰める。冗談でもいいから
俺が盗んだとか言ってほしかった
「うん、俺も持ってないし知らない」
俺は確信した。手袋を落とした
きっと今日の夕方はかなり冷え込むだろう
今でさえも超冷たい
探しに帰ろうか悩んだが
たくまを連れて雪道を戻るのは
さすがに申し訳なく感じた。
さよなら手袋。結構気に入ってたんだけどな

AM10:30
ど田舎を歩き抜き心身ともに疲労
溜まっていた。臭いもなかなかきつい
そんな俺らの前に西那須野の街が広がってきた
ファーストフード店にゲーセン、スーパーマーケット
大型家具店にカラオケまで。
まぁ無一文の俺はハンバーガーさえも食べられない
ゲーセンから出てきたアホそうな中学生が
こっちを見て笑ってた。
あんまり好きじゃない顔だったから無視
少し歩いたところにスーパーがあったので
そこの休憩所で無料のお茶をがぶ飲み
そして非常食に持ってきたふりかけを
そのまま口に流し込む。
一度やってみたかったんだよね。
美味すぎる、これさえあれば何もいらない

旅再開
2人で並んで狭い歩道を歩いていると
後ろから佐川急便のトラックが停まった
気にもせず歩き続けた
すると後ろからお兄さんが走ってきて
俺らに話しかけてきた。
「なぁ兄ちゃん、無一文なのか?
 俺こういう旅人見てると
 応援したくなっちゃうんだよ
 これは俺からの小遣いだ
 なんかうまいもん食いな」
ぽかーーーん、、、、、、、
え?この人何言ってるの?
なんで俺らお金貰ってるの?
もちろん返そうとした。すると、
「いいんだいいんだ俺のお節介だから
 楽しんで来いよ」と言い
ラクションを鳴らしていってしまった
ぽかーーーん(今日2回目)
くそ、もう訳わかんねぇ
なんでこんな優しい人いんだよ
旅してるとこんな訳わかんないことばっかり
1人1000円2人で2000円。
こうなったら美味いもん食べてやろうぜ

PM14:00
さすがにたくまに疲れが見えてきた
そりゃそうだ。あいつはコートにブーツ
100㎞歩くような格好ではない。
間違いなく靴擦れするだろ。
大田原市に入るとたくまの歩くスピードが
一段と落ちた。コンビニで少しずつ休憩を
入れながら進む。そんな時だった。
那須町から3つ目の街、矢板市に入ると同時に
俺らの前方に青い車が停まった。
中からおっちゃんが出てきて俺らを呼んでいる
「乗ってきなよ、俺も進行方向同じだからさ」
その言葉を聞いたたくまの顔が変わった
さっきまで俺の遥か後ろを歩いてたくせに
全力ダッシュ(それでも遅い)で俺を抜きさり
一目散に車に走っていった。
どこにこんな元気が残ってたんだよ、、、
本当はヒッチ禁止だけど
勝手に停まってくれたんだからしょうがない
矢板市の中心部まで5㎞程乗せてもらった。
これを読んでる君なら車で進む5㎞なんて
あっという間だってことが分かるだろ?
だけどなずっと歩いてきた俺たちにとって
5㎞乗せてもらえるって超大きいことなんだよ
たかが5㎞でも歩いたら1時間。
1時間巻けるのはとても大きい
ほんとにあっという間だったけど
このおっちゃんに助けてもらったことは
きっとこの先忘れることはないね
みんな勘違いしないでくれよ
これはヒッチハイクではない
勝手に停まってくれただけだから 笑