Freedom~路地裏の幻Ⅲ~

9月の上旬の土曜日。
俺たちは宇都宮の中心街にある二荒山神社の広場で
5か月遅れの花見を楽しんでいた。
メンバーは俺とこうたと学生団体に所属している翔と
起業を考えているゆうたとけいた。
そして盲学校(目に障害を持った子供が通う学校)に
通いながら学生団体のリーダーを務めるひろのり。
様々な個性を持った男たちが集まった。
目の前にあるドン・キホーテで総菜を買い込んで
地面に広げて宴が始まった
最初こそ起業の話だとか人脈の話だとか
意識高い話が続いたけども
(俺はこういう話が大嫌い)
あっという間にエロトークに。
ひろのりがロリコンだとか、
ゆうたが青姦しただとかきったねぇ話が
延々と続いた。やっぱ男子高校生って
こういうもんだよな。
俺もカッコつけてノンアル気分なんか
買っちゃってそれ飲みながら
酔ったふりなんかしてさ。

気づいたときにはもう真っ暗
余った唐揚げを誰が食べるかじゃんけんで
負けた俺は少し不貞腐れていた
そんでゆうたとけいたがまだ
カフェに行ったことないらしく
せっかくだから連れてくことにした
9月上旬の宇都宮の夜はまだまだ蒸し暑い
10分くらい歩いてカフェに着いた
じめじめした建物に入り3階まであがり
灯りを付けた。もうすっかり俺たちの秘密基地だ
ゆうたとけいたはカフェの狭さに驚いてた
そのまま俺たちは巨大な扇風機の前に
顔を並べこのカフェの今後について話した
やっぱり人が来ないことには
運営どうこういってる場合じゃないよなって
ことになって今度からゆうたとけいたも
2日に1回くらい顔を出すことになった
俺もバイト終わってから合流することで
決定。やっと面白くなってきた

週が明けて月曜日
2日に1回て言ったのに隣町に住む翔以外は
全員揃っちゃうていう事件発生。
さすがにこの狭いスペースに全員入りきらない
少しスペース飛び出して各々のお仕事スタート
受験が近いゆうたなんかはプレゼンの練習してた
俺らが聞いてぼろクソに感想を言うみたいな
今思えばちょっと言い過ぎたかなと反省
9時半に営業終了してからラーメン食い入ったり
もう本当に仲間って感じだ。

こんなのが4日くらい続いた。
そんである日、ラインのグループで
「明日全員で集まろうぜ」って言ったんだよ
その時はどんなことになるかなんて
想像してなかったんだよね。
そんで次の日学校終わってからさ
そのままカフェに行ったんだ
そしたらさ余裕でカフェのスペースから
飛び出しちゃうくらいの男たちが
わんさかいるわけ。
もう多すぎて誰が誰かさっぱり覚えてねぇ
んで、もちろんスペースはみ出して
グループごとに話してたら2階から
誰かあがってくるのさ。
俺はその足音が友達だと思ってたんだよね
「よぉりゅうた!!遅かったな!」
言って1秒で後悔した。そいつはりゅうたじゃなかった
一番このタイミングで来てほしくなかった人
ここのビルの賃貸主だ。あ~やべぇ見られた~
俺らの前に現れたおっさん(のびた似)に
俺たちはめちゃくちゃ怒鳴られた。
やべぇて思いながら顔を下げる常連の奴らと
え、ナニコレ?て顔で呆然とする新人
一応運営のこうたが何か反論してたが
おっさんは聞く耳を持たなかった
まぁどんなバカな俺でも分かる
これは間違いなく俺らが悪い
130%俺らのせいだ。
おっさんは俺らのオーナーに電話した
とりまおっさんがめっちゃ怒ってるので
俺はこうたを残して
今日初めて来てくれた地元の高校生を
連れて近くのスーパーのイートインコーナーで
今回の事情を伝えた。1時間後基地に戻ると
こうたがいた。オーナーから連絡があったらしく
このカフェの閉鎖が決まった。
今回の事件以外にも色々金銭的な問題も
あったから妥当な決断だったとも思える
カフェの最後の営業日
俺とこうたは真っ暗のビルの前で
思い出を語り合った。
最初はあんなに客が欲しい欲しい
言ってたのにいつの間にかこんなに
集まっちゃって集まりすぎて閉鎖とか
笑えるよな。ほんと何があるか分からんよ
俺らはこれを路地裏の幻と呼ぶことにした
きっと二度とこのビルに帰ってくることはないだろう
たしかに経営は最悪だったしカフェとしては
完ぺきではなかったかもしれんけど
この場所を通して色んな同年代と知り合えたのは
超楽しかった。みんなとは
きっとまたいつか一緒に活動する日が来ると思う
その時までに俺はもっと面白くなってたいし
もっとカッコよくなってたい。
それは何か月後何年後かは分からんけど
また一緒に幻を起こせることを楽しみにしてるよ
蝉の鳴き声が聞こえる
俺はなぜかすっきりした気持ちで家へ帰っていた