Freedom~氷点下の宴Ⅰ~

みんな忘年会って知ってるよな?
「忘年」って言い訳を付けて
一杯500円もするような生ビールを
9杯も10杯も飲みまくるあのお祭りだ
今日は12月30日。
世間は忘年会シーズンの真っただ中
そんな中俺らは栃木県の最北部
那須町にある黒磯駅のロータリーにいた
北風がビュービュー吹いており
寒さのせいか周りに人は1人もいない
AM7:00俺らは昨晩の雪がまだ残る
駅前の住宅街を歩いて進んでいった

話はさかのぼり2週間ほど前
俺は高校で、夏に一緒に旅した
たくま(仮名)と二人で話していた
あの旅から5か月。季節が変わり
街の平均気温が30度以上変わっても
俺らの関係はちっとも変ってなかった
朝はいつも同じ電車(違う車両)
改札で挨拶だけして別れたと思ったら
たくまがチャリに乗って徒歩通学の
俺を追いかけてくる。
仲が良いのか悪いのかよく分からん
少なくとも俺はたくまといて
退屈はしていなかった。


ある日俺はYouTubeアメリカ横断した人の
動画を見ていた。かっこいいな羨ましいなと
思いつつも何故か心の中で「俺もやってやる」と
反骨心みたいのが芽生えていた。
まぁ俺らの鬼バイトではアメリカ横断のために
30日も休みが取れるわけがない
そこでまずは俺らの住んでいる栃木県を
北から南まで歩いて縦断してみたいなと思った
なぜ徒歩旅なのかって?
う~ん明確な答えがあるわけでもないんだけど
最近ってチャリ旅とか
バイク旅とか流行ってるじゃん
それらを否定するわけではないが
俺は徒歩旅じゃないと
見つけられない物ってあると思うんだ。
草むらに隠れているエロ本、
裏路地から聞こえる子供の笑い声、
犬のうんこと(⁉)
潰れかけの商店
全部日常にあり溢れている何気ないこと
だけどそんな何気ないことこそ
意外と思い出に残ったりするもんだろ
これを読んでるあんたにもそんな経験あるはずだ
俺は何気ないこと探しが大好きだ
だからチャリじゃなくて
徒歩でチャレンジしてみたい
「何の収益性もないけど  
   徒歩で氷点下の栃木県を歩いて縦断」
きっと俺の先祖は
とんでもないドMだったんだろうな

高校でたくまと話している場面に戻ろう
今回の旅もたくまと一緒に行こうと考えていた
実行予定日は12月30.31日の一泊二日
このことをたくまに話すと
意外とすんなりと了承してきた
時期も時期だから2人だけの
忘年会ということにした
まぁ俺らの忘年会はそこらの忘年会とは
訳が違う。豪華なご飯も飲み放題の
ソフトドリンクもどこにもない
ちなみに今回の旅の俺の所持金は
視聴者投票で0円になってしまった。
(宿代は除く)
みんなはこれがどれだけやばいかってこと
分かってくれるよな?
とりあえず2日間飯が食えない
ってことだよね
食べることが生きがいの
俺にはとてもきつい
んまぁ2日飯食わなくても
死ぬわけじゃないし
それに、歩いて栃木縦断なんて
大人になったら絶対やんないし
今やるしかないでしょ
2人とも前日まで何の準備もせずに
適当に着替えだけをバッグに詰め込んで
当日を迎えることになった

ここで冒頭の場面に繋がる
俺とたくまは誰もいないロータリーに
立ち尽くしていた。たくまが言った
「やべぇ本当に来ちまったよ、、」
カラスの鳴き声が早朝の黒磯の街に
響き渡る。黙ってるとこの街に
飲み込まれてしまいそうだ
「とりあえず歩こうぜ」
そう言って俺らは国道に向かって
歩き出した。スマホのコンパスで
方角だけ調べてあとはその方角に
歩いていくだけ。宿に行くまでに
スマホの充電が切れたら大変だ
無駄なところで
電池を使うわけにはいかない。

歩き出して20分
国道が見えてきた。一安心
今日はここから宇都宮の中心街まで
歩く予定だ。ざっと60㎞程か。
AM8:00俺らの長い長い忘年会が始まった
朝陽が雪に反射し眩しい
俺らは、いや俺はこの非日常な状況に
少しウキウキしていた。
決められていないルート
所持金が0円ということ
膨大な自由時間
この旅を面白くするのは俺たちだ
無一文だから何も出来ないと
考えてしまうのはナンセンス
いや逆に無一文の方が旅って
面白くなったりするんだよね
俺らは便利な世の中に生まれすぎた
偶にはこんな縛りがある環境で
生活するのも楽しいかもしれない
自分の知恵と感覚を信じて
栃木最南端の街を目指そうか
時間はまだまだたっぷりある。

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